『万葉集』に歌われた初恋
11月から定例講座として開催を予定!この講座は定例講座開催前のプレ講座でございます
初恋を歌った一首「たらちねの母が手離れかくばかりすべなきことはいまだせなくに」
を、享受史にも目を配りながら読み解きます。
定期講座では巻一から秀作・問題作を選抜して読み進めますが、このプレ講座では巻十一所収の短歌一首を精読します。「たらちねの母が手離れかくばかりすべなきことはいまだせなくに」という歌で、うら若い少女の初恋の歌です。平安以降、和歌の世界では初恋という主題が長らく顧みられない状態が続きました。おそらくそのためもあって、この一首は前近代を通じ秀歌と認められることがありませんでした。近代になると西洋詩の影響で初恋がクローズアップされるようになり、この歌も大正末期ごろには万葉を代表する秀歌の地位を獲得します。当時の読者はこの歌を個人の抒情詩と信じ、初めて恋をした少女の切ない思いが歌われていると理解したのですが、この歌から始まる149首の一群には左注が付いていて、「以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出」とあります。柿本人麻呂が作成した歌集に載っているというのです。歌集を作成した人麻呂がこの歌の作者でもあるのでしょう。人麻呂はもちろん男性です。それでいて少女の心境を歌ったというのは、どういうことでしょうか。解釈を掘り下げながら考えていきたいと思います。