『平家物語』を読む
勇壮な合戦
源義経の活躍と鵯越の逆落としで有名な一の谷の戦い、那須与一が扇の的を見事に射貫く屋島の戦い、平家一門の滅亡を伝える壇ノ浦合戦など、今に至るまで著名ないくつもの合戦が生き生きと描かれています。
人々の覚悟
壇ノ浦の合戦で、平時子(清盛の妻)は幼い安徳天皇を抱き、「浪の下にも都のさぶらふぞ」(波の下にも都がございますよ)と慰めながら、海に沈みました。『平家物語』の大きな魅力の一つは、人々の覚悟、人が人として何ができるのか、何が残せるのかが丁寧に描かれていることにあります。それらの場面を読み解くことで、彼らの思いに触れることができます。
歴史の転換点
『平家物語』が描くのは、平安時代から鎌倉時代へ、貴族の世から武士の世へと時代が移り変わった時代です。物語全体を読み解くことで、歴史の大きな変化を感じ取ることができます。
『平家物語』は、中世文学そして日本文学を代表する軍記物語です。南北朝・室町時代以降、広く深く、時代と人々に愛され、現代に至るまで読み継がれてきました。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」に始まるこの作品は、平安時代から鎌倉時代への変革期に起きた、いわゆる「源平の合戦」を素材として、平家一門の興亡を描きます。作品の魅力の一つとしては、当然、勇壮な合戦場面が挙げられるでしょう。宇治川・平等院の「橋合戦」、水鳥の羽音に平家軍が逃走する「富士川の戦い」、源義経が活躍する「一の谷の戦い」、那須与一が扇の的を射貫く「屋島の戦い」、そして平家滅亡を描く「壇ノ浦合戦」。多くの合戦場面が展開し、源氏・平氏双方の武将たちが躍動する様が生き生きと描かれています。
しかし、『平家物語』は合戦だけの物語ではありません。平敦盛・時子・知盛・重衡など、一の谷や壇ノ浦で命を落とす平家一門の人々の覚悟、捕虜になった後の彼らの矜持と死に様は、現代を生きる私たちの胸に迫るものがあります。『平家物語』とは変革期の歴史を描く作品であると同時に、動乱・合戦という極限状況の中、人が人として何ができるのかという問題と向き合い、その様や覚悟を美しく哀切に語った物語でもあるのです。中世の人々の人生観や死生観を含み込んだ物語として、『平家物語』の魅力をご一緒に読み解いてみましょう。